中小企業が現状業務の棚卸しを始める前に押さえたい目的と進め方

開発プロセスと要件定義の進め方

はじめに:「何をどう聞けばいいかわからない」は当然です

システム導入を検討するとき、まず必要になるのが「現状業務の棚卸し」です。社内の業務を整理し、どこに課題があるのかを把握する作業ですが、「実際に何を聞けばよいのか」「どこから手をつければよいのか」と戸惑う方は少なくありません。

特に、総務や事務を兼務しながらシステム担当を任されている方にとって、聞き取り調査の設計や進行は慣れない作業です。しかも相手は、普段一緒に仕事をしている社内の担当者です。「不自然に思われないか」「うまく話を引き出せるか」と不安になるのは自然なことといえます。

この記事では、システム開発に向けた業務の棚卸しを、社内に詳しい担当者がいなくても進められるよう、準備から記録、依頼の仕方まで順を追って解説します。


事前に決めておきたい準備事項

誰に話を聞くかを整理する

業務の棚卸しでは、現場で実際に手を動かしている人に話を聞くことが基本です。マネージャーや部門責任者だけに確認すると、「実際の作業手順」や「日常的な困りごと」が見えにくくなります。できれば、各部門の責任者と現場担当者に、それぞれ1名ずつ話を聞くのが理想です。

対象部門が複数ある場合、最初から全員に聞き取りをしようとすると、日程調整だけで時間を取られてしまいます。そのため、「業務量が多い部門」や「システム化の要望が強い部門」を優先して始めるのが現実的です。

どこまでを対象業務にするかを決める

棚卸しの対象を「全社の業務すべて」とすると、範囲が際限なく広がってしまいます。今回のシステム導入で解決したい問題が、たとえば「受注から請求までの流れ」であれば、最初からその範囲に絞って確認を進めるほうが効率的です。

対象範囲を決めるときは、「このシステムで何を変えたいのか」という目的から逆算して考えると整理しやすくなります。目的が曖昧なまま棚卸しを始めると、情報が集まるほど混乱が増してしまうおそれがあります。

無理のない実施日程を組む

聞き取りの時間は、1回あたり30〜60分を目安に設定するのが適切です。長すぎると相手の負担になり、情報も整理しにくくなります。部門数が3〜5程度であれば、2〜3週間で一通りの調査を終えられることが多いでしょう。

月末や期末など、各部門が忙しくなる時期は避けて日程を組むようにしましょう。特に経理や総務は月末に業務が集中しやすいため、月の前半に設定するほうが進めやすくなります。


部門ごとに使えるヒアリング項目の例

各部門で確認すべき内容は、業務の性質によって大きく異なります。以下は、中小企業でよく見られる部門ごとの確認事項の例です。そのまま使うのではなく、自社の状況に合わせて取捨選択してください。

営業業務で確認したいこと

営業では、見積もりの作成から受注、案件管理の流れを中心に確認します。具体的には、「見積書はどのツールで作っているか」「顧客情報はどこに保存しているか」「案件の進捗はどうやって把握しているか」などが基本的な質問になります。

さらに重要なのが、「受注後に社内のどこへ情報を引き継いでいるか」という連携部分です。ここに手作業や転記が発生していると、ミスや遅延の原因になりやすいため、丁寧に確認しましょう。

購買業務で確認したいこと

購買では、発注から検品、支払いまでの流れを把握します。「発注はメール・電話・FAXのどれを使っているか」「発注履歴はどこで管理しているか」「在庫の確認はどのタイミングで誰がしているか」といった点が主な確認事項です。

仕入れ先ごとにやりとりの方法が異なるケースも多く、「A社にはFAX、B社にはメール」のように属人的な運用になっていることもよくあります。こうした統一されていない部分も漏れなく記録しておきましょう。

経理業務で確認したいこと

経理では、請求書の発行・受取、支払管理、月次の締め処理などを確認します。「請求書はいつ、誰が、どのツールで作っているか」「入金確認はどのように行っているか」「会計ソフトへの入力は手作業か自動連携か」などが主な質問です。

加えて、「月末にどの作業が集中するか」「エラーや確認漏れが起きやすいのはどの工程か」も聞いておくと、課題を特定しやすくなります。

総務業務で確認したいこと

総務は業務の幅が広いため、最初に「今回のシステム化と関係する業務」に絞って確認します。たとえば、勤怠管理、備品管理、契約書管理、社内申請の流れなどが対象になることが多いです。

「紙で運用しているものはどれか」「承認が必要な申請にはどのようなものがあるか」「ファイルの保管場所が分散していないか」などを確認することで、デジタル化できる余地が見えてきます。


表面的な話で終わらせない質問の進め方

業務の流れを具体的に聞き出す

「どんな業務をしていますか?」と尋ねると、「受注処理をしています」といった大まかな答えが返ってきがちです。そこからさらに「受注の連絡が来たら、次に何をしますか?」と、1ステップずつ具体的に深掘りしていくことが重要です。

「最初からすべて説明してもらう」のではなく、「作業を一緒に順番に追っていく」イメージで進めると、相手も話しやすくなります。可能であれば、実際に画面や書類を見せてもらいながら確認できると、より正確な情報が得られるでしょう。

手作業や二重入力の有無を確かめる

システム化で解決できる問題の多くは、「同じ情報を複数の場所に入力している」「システムに入力した後に、さらに紙へ転記している」といった二重作業です。こうした手作業は、現場では当たり前になっていることが多く、自発的には出てこない場合があります。

「今の手順の中で、同じ情報を別の場所にも入力することはありますか」「その作業を手間に感じることはありますか」と具体的に問いかけると、見過ごされていた非効率が見えてきます。

困りごとや改善希望を引き出す

課題に関する質問は、「何か困っていますか」と直接聞くと、「特にありません」で終わってしまうことがあります。代わりに、「一番時間がかかっている作業は何ですか」「間違いが起きやすいのはどの作業ですか」「休みの日に出社して対応したことはありますか」といった、具体的な場面を尋ねる形にすると、本音が出やすくなります。


聞き取った内容を漏れなく残す記録方法

記録に入れておきたい基本項目

聞き取った内容は、後から見返せる形で必ず記録します。記録には、実施日時・対象者・部門名に加え、現状の業務フロー、使用しているツールや書類の種類、手作業や転記が発生している箇所、困りごとや改善希望、調査中に出た補足情報や疑問点を含めておくとよいでしょう。

これらをひとつのシートにまとめておくと、複数部門の結果を比較しやすくなります。

そのまま使いやすい整理フォーマットの考え方

記録のフォーマットは、ExcelやGoogleスプレッドシートで作るのがおすすめです。部門名、業務名、現状の手順、課題、要望、備考を列として並べ、実施のたびに行を追加していく形が扱いやすいでしょう。

最初から完璧な書式を作る必要はありません。1回目を終えてから「この項目が足りなかった」「この列は不要だった」と調整していけば十分です。


協力を得やすい依頼の伝え方と日程調整のポイント

相手に負担感を与えにくい依頼文の例

協力をお願いする際は、「目的」「所要時間」「相手にとって負担が大きくないこと」を最初に伝えることが重要です。以下は依頼文の例です。

現在、業務効率化に向けたシステム導入を検討しております。つきましては、〇〇部門の業務の流れについて、30〜45分ほどお話を伺う機会をいただけますでしょうか。準備は不要ですので、普段の業務の流れを教えていただくだけで問題ございません。

「準備不要」「普段の業務について話してもらうだけ」という点を明示することで、相手が感じる心理的なハードルを下げやすくなります。

調整が進みやすい日程の決め方

日程は、「候補日を複数提示して選んでもらう」形が基本です。ただし、相手が多忙な場合は返信が来ないこともあります。メールで候補日を送る場合は、3〜5日の候補日を曜日と時間帯付きで提示し、1週間以内に回答をお願いする形にすると進めやすくなります。

社内であれば、口頭で大まかな日程の合意を取ってから、メールで詳細を確認する方法も有効です。


中小企業で起こりやすいつまずきと対策

話が担当者ごとに食い違う

同じ業務について複数の人に聞くと、「Aさんはこう言っていたが、Bさんは別の手順を話した」というケースはよくあります。これはどちらかが間違っているというより、担当者ごとに少しずつ異なる手順で業務を行っている、いわゆる運用のばらつきが原因であることがほとんどです。

こうした食い違いが出たときは、どちらが正式な手順かを急いで決めるよりも、「実態として複数の運用が混在している」という事実として記録しておくほうが有益です。システム設計の段階で、どちらに統一するかを検討できます。

対象範囲が広がりすぎる

調査を進めるうちに、「あの業務も棚卸ししたほうがよい」「この部門も含めるべきではないか」と範囲が広がっていくことがあります。よくある状況ですが、そのまま広げ続けると、棚卸しがいつまでも終わらなくなります。

対策としては、最初に「今回の対象はここまで」と範囲を文書で決めておき、追加の論点が出てきた場合は「次の段階で検討する」としてリストに記録するだけにとどめる方法が有効です。

課題ではなく要望だけが集まる

現場への聞き取りで多いのが、「このシステムが欲しい」「この機能があると便利」といった要望に話が偏り、「なぜその機能が必要なのか」という根本の課題が見えにくくなるケースです。

こうした場合は、「その機能があると、今の何が解決できますか」「今はその作業をどのように対応していますか」と、要望の背景にある業務課題に立ち戻る質問を挟むようにしましょう。


短期間で業務の棚卸しを終えるための進め方の要点

業務の棚卸しを短期間で進めるには、最初に対象範囲と優先部門を明確にし、1回ごとの聞き取り時間を区切って進めることが大切です。あわせて、質問項目と記録の形式をあらかじめ用意しておくと、調査後の整理にかかる負担を抑えられます。すべてを一度で完璧に把握しようとするのではなく、重要度の高い業務から順に整理する進め方が現実的です。


よくある質問

Q1. 聞き取り調査にはどのくらいの時間がかかりますか?

1回あたり30〜60分が目安です。部門数が3〜5であれば、準備・実施・記録整理を含めて2〜4週間で一通り完了することが多いです。ただし、日程調整に時間がかかる場合もあるため、余裕を持ったスケジュールで進めることをおすすめします。

Q2. 社内に協力してもらえる人が少ない場合はどうすればいいですか?

少人数の会社では、一人が複数の業務を担当していることも多く、対象者自体が少ない場合があります。その場合は、社長や経営層が業務の全体像を把握していることも多いため、最初に経営者への聞き取りから始める方法も有効です。

Q3. 記録はどんなツールで管理すればいいですか?

特別なツールは必要ありません。ExcelやGoogleスプレッドシートで十分対応できます。クラウド上で共有できるGoogleスプレッドシートは、複数人で確認しやすいため便利です。

Q4. 聞き取り内容を社内で共有する必要はありますか?

最終的には、システム開発を依頼するベンダーに共有するために整理する必要があります。社内でも、まとめた資料を確認してもらうことで、内容の認識合わせや漏れの確認に活用できます。

Q5. 自分が担当している業務についても棚卸しが必要ですか?

必要です。システム担当者が兼務している総務や事務業務も、棚卸しの対象になることがあります。自分の業務は自分で書き出すことになりますが、「第三者に説明するつもりで書く」ことを意識すると、より客観的に整理しやすくなります。


まとめと次のステップ

業務の棚卸しは、システム開発の成否を左右する最初の重要な工程です。準備を整え、各部門に丁寧に聞き取りを行い、得た情報を漏れなく記録することで、開発会社との打ち合わせがスムーズになり、結果として開発期間の短縮やコストの抑制にもつながります。

「何から始めればよいかわからない」という段階でも、具体的な確認項目を持って調査に臨むだけで、得られる情報の質は大きく変わります。まずは対象範囲と優先部門を決めるところから始めてみてください。

業務の整理やシステム化の方向性について、「どこに相談すればよいかわからない」とお悩みでしたら、ぜひ一度ご相談ください。聞き取り調査の進め方から、開発会社への依頼内容の整理まで、経験豊富な担当者が一緒に検討いたします。お問い合わせフォームよりお気軽にご連絡ください。

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